建設業の社会保険を徹底解説!一人親方も入れる?

建設業を営んでいる事業者の方、「社会保険に入っていないと現場に入れないと言われたんだけど…」「従業員を雇い始めたけど、何か手続き必要なのかな?」とお悩みではありませんか?建設業における社会保険加入は、実は経営そのものに大きくかかわる課題です。一つずつ確認していきましょう。

なぜ建設業で社会保険が問題になる?

そもそも社会保険は、建設業に限ったものではありません。製造業も小売業にとっても、もちろん必要な手続きです。それなのになぜ、建設業界で問題となるのでしょうか。それには、建設業独特の背景があるからです。

国土交通省が加入を推進している社会保険の定義

建設業界では、関係者が一体となって社会保険未加入問題の対策を進めています。

社会保険とは、広義では健康保険、年金保険、雇用保険、介護保険、労災保険の5制度です。建設業社会保険加入対策では健康保険・年金保険・雇用保険の3つの保険制度を対象にしていることから、この記事でもその点に絞り解説します。

経営事項審査、公共工事での問題

公共工事を発注機関から直接請け負おうとする場合、経営事項審査を受けることが必須です。その経営事項審査において、健康保険および年金保険の未加入企業に対する減点措置が厳格化されました。大幅な減点は、順位・格付けに影響することは必至です。

建設業許可更新申請での問題

令和2年10月1日より、建設業の新規許可、更新、業種追加などの申請時に、適正に社会保険に加入していることを証明する書類提出が要件化されました。経営管理責任者等の常勤性の証明の確認としても、社会保険加入についての証明書類は必須です。

建設キャリアアップシステム(CCUS)登録での問題

普及拡大が進んでいる建設キャリアアップシステムでは、社会保険の加入状況の登録が必須です。元請企業も建設キャリアアップシステムの登録内容(システムを使用しない場合は施工管理台帳や作業員名簿)にて、適正な保険に加入していることを確認します。

社会保険に未加入だとどうなるか

社会保険料の負担が大変、他の会社も入っていないし..そもそも手続きが面倒、と加入義務があるにもかかわらず放置した結果どうなるでしょうか。建設業を営む上でも、また個人の生活においても影響は避けられません。

社会保険未加入によって受注減の可能性あり

建設業許可の維持ができない場合、500万円以上の工事を請け負うことができません。また、公共工事の受注も難しくなることが予想され、民間、公共と両方の工事の受注に影響があります。

参考:国土交通省「下請指導ガイドライン」とは

下請企業のことだから、元請企業にとっては無関係、というわけではありません。平成29年に発表された国土交通省「下請指導ガイドライン」では、社会保険未加入の建設企業を下請企業として選定しないよう要請、「適切な社会保険」に加入していることを確認できない作業員について、特段の理由がない限り現場入場を認めない取扱い、とされています。
建設市場整備:社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン – 国土交通省

十分な社会保障が受けられない

建設労働者の中には、社会保険に未加入だったために医療、年金等、いざというときの公的社会保障が受けられない人も少なくありません。「でも国民健康保険に入っているから3割負担で受診できるし大丈夫」と思われる方もいるでしょう。しかし、市町村国民健康保険には無い、社会保険特有の制度もあります。例えば「傷病手当金」は疾病により労務不能で給与が受けられなくなった場合に給付されますが、これは国民健康保険には無い制度です。

雇用保険に未加入の場合、雇用保険からの給付(失業給付、育児休業給付、介護休業給付等)が受けられません。

適切な社会保険に加入していれば受けられたはずの給付が、受けられないのです。従業員から損害賠償請求される恐れもあります。

社会保険未加入は人材確保の妨げになる

社会保険完備が義務のところ「未加入」の場合、ハローワークで求人登録が受付されません。若年労働者の建設業離れにより技術や技能の若者への承継が困難となり、建設業に必要な人材の確保を妨げることになります。

保険料を最大2年分遡って徴収されることもあり

年金事務所の立ち入り調査等において、適正に手続きしていないことが判明した場合、最長2年間分保険料を遡って徴収される可能性があります。「見習い期間だから加入させない」というケースも見受けられますが、本来は入社時から加入が必要です。本人負担分、会社負担分両方徴収されるため、経済的なインパクトが大きくなります。

雇用保険においても、本人がハローワークへ相談し、未手続が判明することがあります。その場合、2年間遡って保険料を納付しなければなりません。

社会保険の加入基準と必要な手続き

求められているのは、現行制度で定められた「適切な保険」に加入していることです。法人・個人事業の別、従業員規模により、それぞれに応じた「適切な保険」について解説します。

法人の場合の社会保険

1人のみの法人でも社会保険の強制適用

法人は社会保険の強制適用事業所です。代表取締役一人だけであっても、報酬が発生していない場合を除き、加入しなければなりません。事業所所在地管轄の年金事務所にて手続きをします。

従業員の加入は働き方の要件あり

通常の雇用者(正社員)は当然に加入となります。パート等、日数や時間が少ない労働者でも、1週間の労働時間および1か月の労働日数が正社員の3/4以上であれば、加入しなければなりません(2ヶ月以内の期間を定めて雇用され、契約更新が無い方は除外)。

個人事業の場合の社会保険

従業員5人以上は強制適用、5人未満は任意適用

建設業では、従業員が5人以上の場合は強制適用事業所となります。

従業員5人未満でも、任意適用申請し加入することができます。福利厚生が手厚くなり、求人募集の際のアピールポイントになるでしょう。

個人事業主本人、個人事業主と同居の家族は加入できない

任意適用の手続きを行い従業員が加入した場合も、「事業主本人」は加入することができません。事業主本人は「国民健康保険(市町村国保や建設国保)」「国民年金」が適切な保険となります。

一人親方の場合の社会保険

国民健康保険、国民年金が「適切な保険」

一人親方の方が、元請先から「協会けんぽ、厚生年金保険に入っていないとダメ」と言われた..など、誤解されているケースもあります。一人親方であれば医療保険は「国民健康保険(市町村国保や建設国保)」年金は「国民年金」が加入すべき適切な保険です。
つまり、一人親方は(世間一般でいう)社会保険には入れません。

売上によっては、法人化の検討もしてみる

事業が順調に伸び一定の所得以上になってきたら、法人化を検討することもおすすめします。法人化すれば当然社会保険に加入することになるので、元請先からの要請にも応えることができます。

「社会保険に入るため」だけではなく、法人化することで取引先や金融機関からの信用度が増す効果もあるでしょう。

雇用保険の加入基準と必要な手続き

次に雇用保険に加入する基準などについて確認します。

従業員なしの場合の雇用保険

そもそも適用除外

雇用保険は、事業所に「雇用される労働者」のための制度です。よって労働者が1人もいない場合は成立し得えません。「未加入」とはいっても「手続きすべきなのにしていない」のではなく「適用除外」となります。

外注でも労働者性が問題になることもあり

「うちは外注の一人親方に頼んでいるから関係ない」と思われる方もいるでしょう。

単に名前だけ「外注」としていても、以下のような働き方の場合は「労働者」と解釈されるケースがあります。

  • 出退勤の管理をされている
  • 仕事を断れない
  • 具体的な指示を受けている
  • 道具や材料は事業所負担

本来一人親方は、自分で事業を行う責任があります。「労働者性」が認められるケースでは、一般の労働者と同様に取り扱われることとなります。

従業員ありの場合の雇用保険

法人も個人事業所も雇用保険適用に差はなし

従業員ありの場合、社会保険とは異なり、法人でも個人事業であっても、加入手続きが必須となります。事業所所在地管轄のハローワークで手続きを行います。

臨時アルバイトは適用除外となることも

従業員であれば全員適用されるわけではなく、以下のような加入の要件があります。

  • 週20時間以上
  • 31日以上雇用見込

臨時的に雇用したアルバイトや、パートタイマーの場合、上記の基準を満たさなければ、適用除外となります。

事業主や事業主と同居の家族は加入できない

事業主は「雇用」されていないため、加入はできません。また、同居で同一世帯の方が働いている場合も「事業主と一体」という見方になり、原則加入することができません。しかし、一般の従業員がいる場合は、一般の従業員と変わりない形態で労働していることが認められると、同居の家族について加入が承認されます。

まとめ

建設業の社会保険は、法人は加入が必須、個人事業所は人数により強制適用か適用除外かが判断されます。

建設業界において国交省等が社会保険加入を推進している背景には、建設業界における建設現場の担い手不足に対する危機感があります。元々社会保険等の加入率のあまり高くない業界だった建設業界において、若者が将来への不安を抱かずに就労できる環境をつくっていくという方針のもとに行われている改革の一部として、社会保険未加入対策があります。

「加入要件に該当するのか詳しく聞いてみたい」「手続きしなければいけないが、時間が無くて窓口にいけない」などお困りの場合には、社会保険労務士への相談をご検討ください。

 

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